番外編/鈴木春信･伊勢物語絵を描いた著名な絵師たち その⑤後編

　さて、鈴木春信のお話に戻りましょう。

　春信はこのブログ31回でご紹介した「富士の嶺」のエピソードを元にした「東下り図」の見立絵（下掲）も描いています。 　富士の背景はそのままですが、主人公らが女性に様変わりしているのが見どころのひとつでしょう。

Pausing to admire Mt. Fuji (parody of Ariwara no Narihira's journey to the east)シカゴ美術館蔵　Clarence Buckingham Collection

　馬上の女性が長煙管（ながぎせる）を粋に持っているかと思えば、従者も煙管（きせる）をご相伴して、お付きの者というより友だちのように見えています。英語のタイトルにもあるように、〝富士山を愛でながら、伊勢物語に擬（なぞら）えてひと休み〟的な、女子旅ふうの情景なのかもしれません。

　もう一点ご紹介しましょう。下の絵では馬を牽く者は男性になっていますが、お付きとして三味線を携えた女性と長煙管を手にした女性が足され、江戸中期のファッション･トレンドを踏まえた一行に描かれています。

Parody of Ariwara no Narihira's journey to the east シカゴ美術館蔵　Clarence Buckingham Collection

　これも見立絵ならではのウィットなのです。前回のブログでご紹介した東下り図のキービジュアルが周知のものだったからこそ、春信がアレンジしたヴァージョンを見比べて楽しむことができたのですね。

第二十三段〝井筒〟をアレンジした春信の〝初恋〟も、下掲のように情感たっぷりです。井戸の周りにしめ縄飾りがあるのがいいですね。水の神聖さが際立ち、恋も清らに思えるのが不思議です。

First Love (Hatsu koi), a parody of the well-curb episode of the “Tales of Ise”　シカゴ美術館蔵　Clarence Buckingham Collection

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