番外編/俵屋宗達・伊勢物語絵を描いた著名な絵師たちその①
各段ごとの絵解きを中心に伊勢物語絵を見てまいりましたが、しばし本編とは外れ、何回かにわたって描き手別に絵を眺めてみたいと思います。
伊勢物語絵には画家不詳のものも多いのですが、江戸初期の嵯峨本で伊勢物語がブームとなり、以降、名だたる絵師たちが伊勢物語を題材に筆をとりはじめました。
なかでも特記しておきたいのは、俵屋宗達、あるいはその工房の絵師たち作とされる作品です。
俵屋宗達(たわらや・そうたつ 生没年不詳・江戸前期)に関する確たる史料は少なく、彼個人がどんな生き方をしたのかも、はっきりとわかっていません。ただ、このブログの第7回でもご紹介した本阿弥光悦とは、義理の兄弟(妻同士が姉妹)であったとの記録が残っています。この記録は、光悦の祖父方の家(片岡家)に伝存するものですので、確からしいと思われます。
宗達は嵯峨本に携わった芸術プロデューサー・光悦の人脈の絵師で、画業に携わり、当時評判の画房『俵屋(たわらや)』を率いていたと考えられているのです。
宗達の代表作は、建仁寺所蔵の国宝『風神雷神図屏風』です。この絵で彼の画風をご覧になった方も多いのではないでしょうか。
この宗達自身、あるいは『俵屋』が制作したと考えられる伊勢物語絵の色紙は、『宗達伊勢物語図色紙』と呼ばれ、59点が見つかっています。
下掲の第九段〝宇津の山〟もその一図です。
人物が五頭身ほどに描かれているせいか、画のなかの世界は現実離れしているように思えます。一瞬でフィクションのなかに誘われるのです。背景の山道も、輪郭が判然とせずあやふやです。絵の具をたらし込む〝ぼかし〟の技法が現実を幻に寄せていくのです。そのうえ、絵のどこかがきらきらと輝きます。ところどころに用いられた金のずば抜けた輝きに惑わされ、誰もがアナザーワールドに導かれてしまいます。
デジタルリンクが少なく、ここで『宗達伊勢物語図色紙』のすべてをお目に掛け、解説することができないのは残念ですが、折あらば、いかにも〝宗達風〟としかいえない個性的な伊勢物語の世界を堪能していただきたいと思います。
また、伝宗達筆と伝わる『伊勢物語図屏風』が出光美術館と泉屋博古館にあります。いずれも素晴らしく、絵もオリジナリティが高いものです。デジタルライブラリーの充実を期待したいところです。
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