桃山期の伊勢物語絵巻に見られる正月のハッピーアイテムとは‥‥?
余談ではありますが、前回お話しした伊勢物語絵巻スペンサー本の正月の絵には、羽根つき遊びをする人たちの様子が描かれています。
羽根つきはいっけん球技のスポーツゲームのようですが、そもそもは勝ち負けを競うのが主眼ではないのです。
なぜ正月の遊びだったかといいますと、この羽根突きには魔除けの意味があったといいます。魔を討つ破魔矢を正月の縁起物として授かり祀(まつ)るのと同様に、新たな年に際しては縁起をかつぎ、羽子板で厄をハネ(羽根)のける遊びをしたのです。
球にしている衝羽根(ツクバネ)の材料は無患子(ムクロジ)のタネです。〝子どもが患うことが無い〟ので、これも縁起のいいツールでした。落球した人に墨を塗るのも罰則ではなく、墨のパワーを利用し、ツキを分け与える厄落としだったと伝わっています。
昭和三、四十年代まではお正月の風物詩であった羽根つき遊び。巷で見かけることはめっきり少なくなりましたが、お正月の古きよきハッピーアイテムとして見直されてもよさそうです。
絵のなかの羽子板の意匠も、和骨董ファンとして見ると、古式ながらも垢抜けて素敵です。いまならアンティーク美術品に値するでしょう。
ここで羽根つきを眺める女性に抱かれた赤ちゃんの額にもご注目ください。よく見ると〝大〟の字が書かれていますね。あるいは〝犬〟にも見えます。
関西や西日本ではお宮参りのときに赤子の額に〝大〟、〝小〟、〝犬〟などの文字を書いておまじないとし、子の健やかな成長を祈る風習が残っているそうですが、この絵巻を見ると、この頃は正月にも縁起をかついで行っていたのではないかとも思えます。
道端では花の枝を持ち、談笑する人の姿も見られます(下掲)。やや作り物めいた花の付き方から見て、この枝は白梅などではなく、正月の飾り物である繭玉あるいは餅花かと思われます。
いまでは華やかな紅白の餅花が一般的ですが、桃山期のこの頃は白一色のものもあったのかもしれませんね。プリミティブ(原初的)でより清浄にも思えます。餅花にも新たな年の豊作への祈りがこめられています。
伊勢物語絵の本筋とはやや離れましたが、大和絵でしばし時空を旅してみるのは楽しいものです。
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