平安時代から、人は生き物のサバイバル戦略に注目していた。伊勢物語第四十三段が描くホトトギスとはどんな鳥……?
お話してきた通り、平安時代の人々は生き物の生態をつぶさに見ていました。
歌に生物が取り込まれているときには、しばしばその習性が歌意の下敷きとなっているので、動植物から当時の人々が連想した〝お約束〟を知っておかなければ意味がとれないのです。
伊勢物語第四十三段などは、その代表的な例でしょう。
この段にはホトトギスの歌が出てきます。国文学研究資料館所蔵の伊勢かるたには下掲のような図が見られます。


男性、女性が描かれたいずれの札にも、空にホトトギスがいますね。
何ということはない場面かと思いきや、前出のかるたには男性が彼女の気の多さを責める歌が書かれ、次のかるたには、女性がそれに対して、〝そんなのは噂だけよ〟と悲しく反論する歌が記されています。
もっと詳しくいいますと、男性は「君ってどこにでも里がある(巣がある)ホホトトギスみたいに、誰にでもなびくんだね」と歌ったのです。
実はホトトギスには、サバイバル戦略として別種の鳥の巣にも卵を産み、その鳥に卵を育てさせてしまう〝託卵〟の抜け目ない習性があるのです。そこを捉えて、男性は歌で揶揄したわけです。
そこで女性は、「そんなのは名ばかりよ。ホトトギスもこんな朝は鳴いて(泣いて)いるわ」と自分の悲しみを表現します。
それだけではなく、歌中で彼女は、ホトトギスの別の面に言及しました。
そのお話は次回にすると致しまして、ここでは伊勢物語かるたの物語絵について付記しておこうと思います。
伊勢物語かるたの絵柄は、絵師によってさまざまです。絵本のように説明的なキービジュアルまでは描き込むスペースがありませんので、略画で端的なイメージを捉えて描かれることが多くなっています。
かるたはポルトガル渡来の遊びで、桃山時代にもたらされたとされています。歌かるたは、従来の王朝遊びであった貝合わせの延長線上にあり、和歌の上の句と下の句が別の札に描かれ、人々は、対の句を揃え取る歌遊びに夢中になったのです。
江戸時代には歌かるたがより盛んになりました。
いまでも往時の伊勢物語かるたが多く残り、いずれにもそれぞれの味わいがあります。下記にリンクをご紹介いたしますので、異なる絵柄のものもぜひお楽しみください。
国立東京博物館 伊勢物語かるた
同志社大学 貴重書デジタルアーカイブ 伊勢物語御歌かるた
鈴鹿文庫 伊勢物語歌留多
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